開発ストーリー
技術を知る企画者と大舞台で転機を迎えた設計者 二つの魂が、電気を見張る機器に結実

開発ストーリー#30 技術を知る企画者と大舞台で転機を迎えた設計者 二つの魂が、電気を見張る機器に結実


工場や商業施設の制御盤に、ひっそりと設置されている小さな箱がある。電力を24時間見張り続けるこの機器がなければ、省エネもカーボンニュートラルも、実現が困難になる。富士電機はその機器2機種を2025年に発売した。この開発に舞台裏には、2つの危機があった。

縁の下で、電気を見張る機器

「EMS(エネルギーマネジメントシステム)に不可欠な、縁の下の力持ちのような存在です」。製品企画を担う橋爪はそう言いながら、小さな箱状のものを2つ取り出した。「電力品質モニタFY10」と「デュアル電力モニタFY20」。これらの電力計測機器は工場や商業施設の随所に設置され、24時間電気を監視する。

EMSは、工場などの電気・ガス・熱の利用状況をリアルタイムで分析してグラフや数値で「見える化」し、自動制御で空調や照明などの設備を最適に管理する仕組みであり、省エネやエネルギーコストの削減とともに、脱炭素の実現を支援するシステム。多くの工場で導入されている。

この生産現場の重要なシステムを支える、というパワフルなイメージに反して、出てきたのは驚くほど軽くて小さなものだった。

左から電力品質モニタFY10、デュアル電力モニタFY20
左から電力品質モニタFY10、デュアル電力モニタFY20 ※写真の一部を加工しています

部品が廃型になり、製品がつくれない

計測・制御業務部の橋爪

20年以上にわたって当時の電力計測機器を安定して供給し続けてきたが、2022年、思わぬ危機が訪れた。

「従来機種は3つあったんですが、そこに使われている電子部品が次々と廃型になってしまったんです。材料を調達できなければ新たに製造できなくなるし、お客様からの修理依頼にもこたえることができなくなってしまう……」(橋爪)

富士電機の強みは、データ収集から管理まで電力に関するトータルサポートができること。その起点となる製品をなくすわけにはいかない。

議論が始まった。部品を変更して従来機種を続けるのか。従来機種に代わる新製品を開発するのか。

「思わぬかたちで始まりましたが、従来機種の刷新が決まりました」と橋爪は当時を振り返る。

用途が異なる従来機種の機能を受け継ぎつつ、工場設備に悪影響を及ぼす「漏洩電流」や「高調波電流」などを1台で監視できる多機能性を特長にして、顧客からの「生産ラインが突然停止した原因を知りたい」といった要望にも応えよう。新しい機種「FY10」を開発しよう。

「もう1台」の決断

もう一つの危機は、橋爪のもとに営業から「制御盤向けの電力計測機器で、他社が攻勢に出てきた」という声が届き始めていたことだった。

原因は明らかだった。他社製品は、富士電機製の半分ほどの大きさしかなかった。さらに、多回路で計測できるようになっていた。

「ものすごい危機感でした。でも、すでに開発を決めていたFY10は3機種を1台に集約した製品で、主にセット機械(注)向けですし、小型化にも限度があります。さらに別の手を考えないといけないと思いました」

(注)セット機械:部品や材料を機械にセットして加工・組み立てを行う産業機械などのこと

新たに提案されたのが、シンプル機能で小型化に特化した「FY20」だった。

コンパクトなボディに最大4回路の同時計測機能を詰め込み、制御盤や分電盤の限られたスペースにも収める小型化を追究する。シンプルで使いやすいから、これから「電力の見える化」を始めようと考える企業も「ちょっと試してみようかな」と手を出しやすくなることを狙った。

橋爪がFY20のコンセプトを社内の営業や特約店に話すと、「これならシェアを巻き返せる。早く製品を出してほしい」とポジティブな意見が返ってきた。

ギリギリを攻めた、小型化の壁

計測機器開発部の小林

2024年、ターゲットもコンセプトも異なる2つの機種の開発が同時にスタートした。技術的な壁はいくつもあったが、中でも高い壁は、小型化への挑戦だった。

設計担当の小林は「どちらの機種の小型化も、一筋縄ではいきませんでした」と話す。

カギは絶縁距離の確保だった。電子回路の距離が近づきすぎると、その間で火花が発生する。繰り返せば部品が劣化し、最悪の場合は発火する。

「小型化を達成するために、ギリギリを攻めた設計を追究しました」

だが、小林の頭を悩ませていたのは、小型化だけではなかった。

「海外規格にも対応させてほしい」

左:橋爪、右:小林

2機種の開発にあたり、橋爪は小林にこんな注文をつけていた。「2機種とも海外規格に対応してほしい。特にFY10は米国のUL規格(注)の認証も取ってほしい」。

(注)UL規格:米国の第三者安全科学機関が認証する規格で、北米市場へ輸出する際の標準規格として機能している。

顧客のある装置メーカーから「FY10を装置に内蔵して、そのまま海外に輸出したい」という要望があったからだった。顧客ニーズを実現するには、橋爪にとって譲れない条件だった。

「UL規格は第三者認証機関による審査が必要なんです。だから、FY10は設計・製造・社内試験を3カ月前倒ししないと、この顧客への納期に間に合わない。小型化とスピードの両立は、これまでで一番高いハードルでした」(小林)

それでも、小林は前向きだった。「技術者は製品を販売するわけではないけれど、橋爪さんを通して、営業や顧客の期待感が伝わっていたからです。技術者としていいものをつくらなければ。そう思いました」。

図面を描いたら、工場へ走った

製品画像
※写真の一部を加工しています

小林はもともと富士電機のグループ会社である「富士電機機器制御」に在籍して、従来機種の1つを担当していた。今回の新製品開発を機に、40歳を目前にした2025年4月、富士電機に移籍した。

「これまでは既存製品をいかに維持するかを考えてきました。今回開発に携わることになった新製品は、既存製品とは販売量がまるで違います。自分はいまの仕事でもっと挑戦したいと思っています」。

大舞台での仕事にはプレッシャーもある。だが、小林は「自分がつくったものがもっと広く、多くの現場で使われることにやりがいを感じています」と話す。

設計の検討段階で、何度も電気回路の配置や向きを変え、どうすれば最適なレイアウトになるのか試行錯誤を重ねた。半年かけた試作図面ができあがった。

すると、小林は事務所を飛び出した。

「設計者は図面ができたらおしまい、というわけにはいきません。製品を量産できるようになるまで製造部門と伴走して、課題を解決していきました」

当時在籍していた富士電機機器制御(埼玉・吹上)、今回の製品の開発統括拠点(東京)、そして製造を担う富士電機メーター(長野・安曇野)。3つの拠点を飛び回る日々だった。最後の半年間はほぼ安曇野に常駐し、量産に向けて現場で仕事を積み上げた。

拠点を飛び回る日々のなかで小林は、「仕事に対する思いが変化した」と話す。

「今まで手を出せなかったアイデアでも、他部門との連携で実現できることがわかりました。自分にはやれることがまだまだあるぞ!と思うとモチベーションが上がります」

25年間の経験が、企画の武器になる

開発の最終段階を迎えていた2025年6月、橋爪は二者択一を迫られた。製品は必要な条件を満たしたが、発売を延期してでもさらに性能を上げるか、それともこのまま発売するか。

橋爪はすぐに、発売にGOサインを出した。判断の基準になったのは、製品企画に移る前の25年間、技術者として設計図を描いていた経験だった。

「製品企画は顧客が欲しいものを形にする仕事です。技術がわかるからこそ、顧客がどんな機能をどの程度のスペックで欲しがっているかが理解できます。だから、現実的な判断として、製品を世に出すことを優先しました」(橋爪)

いま担っている製品企画の仕事は、売上管理からマーケティングまで幅広く携わる。技術者だったころとは別の責任がのしかかる。でも、「仕事の視野は広がった」と感じている。

「予期したキャリアではありませんでしたが、技術者としての経験が今の自分に生きていると感じます」

発売直後、フランスから連絡が来た

製品が完成した。UL規格の認証に必要な第三者認証機関の審査に適合し、「電力品質モニタFY10」は2025年10月に、「デュアル電力モニタFY20」は11月に発売された。

2026年、早くも次の展開が見え始めている。発売直後、フランス(注)から「現地で販売したい」と資料請求の連絡が届いた。
(注)フランス富士電機社

背景に欧州の規制事情がある。日本では高調波電流の管理はガイドラインにとどまっているが、欧州では義務化されている国も多い。FY10が持つ計測機能は、その厳しい基準にこたえられる。

「高調波の規制が厳しくなるのは世の中の流れだと考えていました。ただ、こんなに早く海外から声がかかるとは」と橋爪は話す。

さらに、橋爪はその次の展開も見据えている。「今は国内基準の200ボルト仕様ですが、ヨーロッパやアジアの多くの国では400ボルトが主流。海外のデータセンターでもニーズがあるので、パワーアップさせたい」。

「目的を明確に」橋爪(左),「一体感」小林(右)


二人に学生へのメッセージを書いてもらった。橋爪は「何のために仕事をするのかを意識すると、自分の力になる経験になると思う」と言い、小林は「ものづくりは一人ではできません。企画、設計、製造、営業などいろんな人が集まる、一体感を大切にできるといいと思います」と語った。

25年間の設計経験を製品企画に生かした人物と、40歳目前に大舞台へ飛び込んだ人物がつくり出した機器は、世界の生産現場に広がり、電気を見張り続けていく。